いい大人になる今日まで自分自身の嗅覚障害に気づかなかった人の話。

「ごはんだよ〜」

 
台所にいる母が私と妹のいる居間に向かって叫ぶ。
私より先に妹が台所に走り、食卓を覗く前に言う。
 
「今日のごはんはカレーライス〜?」
 
妹は毎日のように、その日のメニューを食卓を見る前に当てる。
私にはそれが不思議だった。
どうしてさっきまで台所とは別の部屋で一緒に遊んでいた妹が、今日の食事のメニューを当てられるんだろう。
私は食卓を見る前にわかったことなんて1度もないのに。
 
大きくなるにつれて、自分が人より嗅覚が弱いという自覚は持つようになった。
しかし、それが人として異常なレベルである程、とは考えたことがなかった。
目が見えなかったり、耳が聞こえなかったりすればそれは生活に直接支障が出る。
しかし、においがわからなくても生活に直接的な支障はない。
私は他の人がどのようににおいというものを感じているのか知らないから、今までそれが異常だとは思いもしなかった。
 
今まで友人知人に嗅覚が弱いことを話す機会がないわけではなかった。
しかし、私自身がそれを異常だと思っていなかったために「人より少し弱い程度」くらいのニュアンスでしか話さないから、誰も私の嗅覚の異常には気づかなかったらしい。
たまに友達同士で香水や紅茶などのにおいの嗅ぎ比べをする機会になっても、私は周りの人に適当に話を合わせていた。
自然とそれが、クセになっていた。
 
それが、つい最近になって、親しい人との会話中に指摘されてようやく自覚することになった。
 
私は嗅覚障害らしい。
 
人が当たり前のようにわかる「におい」を、私は知らない。
物心ついたときから、ずっと。
 
考えてみれば、タバコを吸う父という存在が身近にいるのに私はタバコくさいというものをよく理解していない。
トイレのくさいにおいというのも私は気にしたことがない。
自分の趣味に関係するところで言えば何度か着た洋服や長い間タンスにしまいっぱなしだった洋服が変なにおいがしないかどうか、自分では判断つかない。
人がつけている香水に気づいたことなんて一度もない。
汗くさいって実際そんなに気になるようなものなのか?シャンプーのいい香りってそんなにいいものなのか?木材の香りって一体何?そもそもにおいで美味しそうってわかるのは何故?
うーん、でも他の人はこれらが当たり前のようにわかるだから、やっぱり私が異常なんだよな。
なんで今まで気づかなかったんだろう。
 
私は食べ物の好き嫌いが多く、かなり偏食的なんだけど、それにも説明がつく。
好んで食べるものは味や食感を重視していることが多く、風味が魅力だけど味気のないものや、歯ごたえや舌触りの良くない食材はだいたい好きじゃない。
例えばコーヒーなんてのは私にとってただの苦い水だし、紅茶はいろんな種類のものを飲んでも全部味が一緒。
食材でいえば・・・松茸?高級食材と言われてもにおいのわからない私にとっては別に美味しくとも何ともない。
他にも食材で該当するものはいろいろあると思うけど、元々においのわからない私にはどれがそれなのかすらわからない。
とにかくにおいがわからないことで、人よりその食べ物の味を理解できてないことは確か。
自分があまり食に関心ないのはそのせいなのかも。
 
視覚障害聴覚障害などに比べて生活での直接的な支障はないとはいえ、においがわからないとなると身の危険が回避できない可能性はある。
食品が傷んでるかどうかにおいで判断できないというのは序の口で、火災によるコゲくささやガス漏れによるにおいすら私は気づくことができない。
でも、これらの「あるかもしれない」程度のことでは障害認定はされないし、私自身も今の今まで自覚なく普通に生きてきたくらいだから、自分が嗅覚障害ということに気づかないまま一生を終える人ももしかしたら世の中にはいるのかもしれない。
 
もしこの嗅覚障害が治せるものであれば治るに越したことはないし、もし治るものでないとしても自分の障害の程度を知っておくことは大事だと思ったので、インターネットで嗅覚障害を扱っている病院について調べた。
嗅覚については医学的にもいまだにわからないことが多いらしく、その辺の適当な耳鼻科に行ってどうにかなるもんでもないらしい。
今回たまたま金沢医科大学病院に嗅覚味覚専門外来があることを知ることができたけど、嗅覚を取り扱っている病院は全国でもほんの数軒しかなく、嗅覚味覚専門外来のために近畿や関東から来る患者さんもめずらしくはないと、病院のホームページに書いてあった。
うおおマジか。そのうちの1軒が隣県にあっただけ私かなりラッキーじゃん。
それでついこの間意を決して受診し、今このブログ記事を書いている。
 
お医者様の話によると嗅覚障害の件で受診する患者さんは元々嗅覚があったのに急ににおいがわからなくなったというパターンが多いらしく、私のように物心ついたときからにおいがわからず、生まれてこのかたにおいなんて感じたことがないわ、という患者さんは少ないそう。
例えば乳幼児のときにアレルギー性鼻炎副鼻腔炎などの病気をしてそれが原因で嗅覚に関する器官が発達しなかったり、頭を強打して脳に障害ができてにおいがわからなくなるということもあるらしいんだけど、私の場合は乳児期幼児期に特別大きな病気や怪我などをしたことがなく、気づけばにおいのわからない子供だったので、そういうものが原因で後天的に嗅覚がにぶくなってしまった、とはちょっと考えづらい。
先生いわく先天的に生まれつきにおいがわからないという人も稀にいらっしゃるそうなので、そっちの可能性が高いかなぁという感じ。
とはいえまだ後天的なものなのか先天的なものなのかはわからないので、原因を特定するための検査をしに病院には通うんだけど、治るかどうかは今の段階では何とも言えない感じ。
後天的なものであれば治療できる可能性はあるみたい。
でも、先天的なものだったら多分難しいんだと思う。
 
なんせもうちょっと病院に通ってみないとわからないことだらけなんだけど、それでも現状の私がにおいを認識できない人間であることは事実で、私と一緒に暮らす人やよく会う人には伝えておきたかったのでこうやってブログに書くことにしました。
 
例えば、もし私の身体や衣服がやけににおうとか、そういうことがあったら言いにくいなんて思わずに正直に教えてください。
それと、一緒に食事などに行く際に私の偏食が目立っても、大目に見ろとまで言わないから人より食べ物の味がわからないってことだけは理解してほしいです。
他、みんなが当たり前のように感じていて、これといって特別言わないようなにおいについても発言してくれると嬉しいです。
「今通った屋台の前すっごいいいにおいするよ」とかそんな感じでOKです。
みんなが私の鼻の代わりをしてくれると、きっと私は生きやすくなるし人生楽しくなると思います。
 
なんせ生活に直接的な支障が出ることではないし、自分自身それほどまでに深刻なこととは捉えてないので、においがわからないなんてかわいそう、とかそういう風には思わないでね。
むしろ「あぁこんな美味しい料理からこみ上げるこの良い香りすらわからないなんて~♪」って冗談言うくらいの対応でお願いします。
そっちのほうが楽しいからさww
 
ところで、ベルセル勢にたまに連れて行ってもらっていた例の紅茶屋さん、当時は嗅覚障害の自覚がなかったとはいえにおいのわからないせいで味が全然わからず、適当なことばっかり言って大変失礼なことをしてしまったので、一度謝りに行きたいです。
茶の味の違いは正直わからないんですが、あのお店の紅茶が自分にとって飲みやすいものであることは確かで、何よりお店の雰囲気がとても好きなので、また行きたいんです。
テメェに出す紅茶なんかねーよと言われたら素直に出禁喰らっとくけど、一度謝りにだけ行きたい。うう・・・ごめんなさい・・・。
 
 
最後に、今回の件によって、ほしいものが増えたのでご紹介。
 
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 私が今一番ほしいものはゲームでも服でもなく、においセンサーです。
誰か買ってください。
 
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その後の通院結果などはこちらの記事に↓